名古屋大学・成均館大学 哲学的交流イベントにて研究発表を行いました
11/1/2025

名古屋大学・成均館大学 哲学的交流イベントにて研究発表を行いました
2025年11月1日から3日にかけて、名古屋大学東山キャンパスにて「Philosophical Interchange between Sungkyunkwan and Nagoya University(名古屋大学・成均館大学 哲学的交流イベント)」が開催されました。
この学術交流の一環として、11月1日にHumanitextプロジェクトの岩田直也が、「AI-Assisted Philosophical Inquiry: Engaging with Classical Sources through ‘Humanitext’(AI支援による哲学的探求:‘Humanitext’を通じた古典資料とのエンゲージメント)」と題した研究発表を行いました。
今回の発表は、Humanitextプロジェクトが開発を進めるAI対話システム「Humanitext Antiqua」の技術的基盤と、それが古典研究にもたらす可能性に焦点を当てたものです。
発表の概要
発表では、まず古典研究が直面する「膨大なテキストデータ」や「言語的障壁」といった課題を提示しました。従来のキーワード検索では捉えきれない複雑な概念的連関を、いかにAI技術を用いて可視化するかが本研究の核心です。
主な内容は以下の通りです。
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Humanitext Antiqua:AIとの新たな対話 AIが研究者の「アシスタント」となり、自然言語(日本語や英語)での問いかけに対し、ギリシャ語やラテン語の原典から適切な箇所を瞬時に検索し、テキスト的証拠に基づいた回答を生成するシステムを紹介しました。
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RAG:「反ハルシネーション」技術 人文学研究においてAIの「ハルシネーション(幻覚)」は致命的です。本システムでは、AIが回答を創作するのではなく、必ずコーパス(古典テキスト群)内の証拠に基づいて回答を生成する「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」技術を採用している点を強調しました。
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COT:AIの「翻訳者」 AI(特に埋め込みモデル)が苦手とする古代ギリシャ語・ラテン語の概念を正確に検索するため、我々が開発した「Context-Oriented Translation(文脈指向翻訳)」という独自の手法を紹介しました。これは、文脈を補った上で英語(AIが最も得意とする言語)に一度翻訳(ピボット)することで、検索精度を劇的に向上させる技術です。
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データ拡張:1,000作品から2,500作品へ Perseus Digital Libraryの豊富なTEI/XMLデータを活用し、コーパスを大幅に拡張するプロジェクトについても報告しました。複雑なXMLデータをRAG向けに最適化する専用ツール
tei_rag_chunkerの開発により、異本や注釈情報も含めた、より深い分析が可能になる展望を示しました。
本発表は、AI技術が人文学研究の「ツール」から、研究プロセス自体を支援する「パートナー」へと進化する未来像を示すものです。会場からは多くの貴重なフィードバックをいただき、活発な議論の場となりました。